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ある統合失調症患者の記憶



彼は言った。




光あれ。と





そして、すべてがはじまったのだという。
















2019年8月18日。




ぼくは、3階の一番奥の会議室で



筆をとっていた。




毎月一回、第三日曜日。






目の前には、はだかの女性が




ポーズをとっている。






無心で描くはだかの女性は




美しい線の集まりであった。






ぼくは市民デッサン会に参加するようになって




2年目に入っていた。






夏はとても厳しい暑さで、





冬はすこしずつ暖かくなっている。





大型の台風が大雨を降らし、



道路を冠水させる。





まるで世界は終わりに近づいているかのようだ。






でも、ぼくのやることといったら、




相変わらずのTVゲームと




10年前にはじめた、絵を描くことぐらいで




毎日、とくに何もなく過ぎていた。







ふと、思い出すことがある。





5年前。



ぼくの持病である、統合失調症の症状が



ひどくなった時、




主治医が打ち出した方針が



電気治療だった。




脳のある部位に電気ショックをあたえることで




病状が改善することがあるのだ。





ぼくはその治療をうけることにした。





今の病院ではその治療は受けられないので




桶狭間の病院へ転院することになった。






雪のちらつく午前のころ、



今いる病院を出て母と一緒にタクシーにのった。





桶狭間の病院は、中京競馬場のすぐ近くにあった。




病院につくと、まず、診察を受けた。




はじめて会った、その病院の医師は




何をきくでもなく、体調や精神状態を



チェックして、診察を終えた。






次に歯科でマウスピースをつくるための



歯の型どりをした。




マウスピースは電気ショックが脳に


流れた時に、無意識に歯を強く食いしばるので、


その時に、


口の中をケガしないようにするためのものだった。




それから、その病院の入院施設に案内された。




3階の入院スペースは、わりと新しい建物で


窓から光も多く入り、快適そうだった。




女性の看護師が、施設を案内してくれた。



とても美人で背の高い若い人だった。




この病院は、以前いたところとちがい、




看護師や、病院の職員がみんな、若かった。




それだけでも、ぼくは嬉しかった。





電気治療は、まだ、2週間、ここでの



入院生活の様子をみてから、おこなうかどうか


決める、と言われた。






ぼくは新しいベッドで落ち着かなかった。





次の日の朝。




朝食は、あまりおいしくなかった。




ここの食事は、どこかもの足りない味だった。




塩分や、うま味成分が足りないような味だった。





ここでの入院生活は、あっという間に過ぎていった。





10年前から、ぼくは絵を描き始めた。




入院中も鉛筆を使う許可がおりたので



スケッチブックに絵を描いていた。




精神科では、入院中は鉛筆を



使うのにも許可が必要だった。






「何描いてるの?」




初日に案内してくれた看護師だった。





「あら、上手ね。」




「ぼく、画家になりたいんだ。」




「そうなんだ。」



彼女はそう答えて微笑んだ。





ぼくは彼女が好きだった。










電気治療がはじまった。



治療の前日、夕食後、0時をすぎたら



いっさいの水分をとってはいけないと言われた。




朝、オムツをはくようにいわれた。




治療中にもらすことがあるようだ。





観察室に入って、体温をはかる。




そのまま、ベッドごと、手術室へ運ばれた。






左手に、全身麻酔の針を注射された。




先生が、マウスピースを口にはめると



「では、開始します。」





と言われ、麻酔が腕から入ってくるのがわかった。





その後は、おぼえていない。





脳に電気を流した後は、




口を強く噛み締めたのか



あごが痛かった。





目がさめると、観察室でベッドの上だった。





看護師が水のはいったコップをもってきた。




「ゆっくり、飲んでください。」





水を飲み干すと、看護師が状態をチェックして




異常なしと判断したのだろう。






「部屋にもどって、オムツをぬいで。」




と言われた。




そんなかんじで




治療は、数回おこなわれた。





術後、オムツが、ぬれていることもあった。





電気治療が終わると、術後の経過をみてから


退院だと言われた。





そのころには、もうすっかり外の気温は暑くなっていた。





治療は、たしかに効果があったようだった。





ぼくは退院することになった。





最後に、彼女が見送ってくれた。








ぼくは別れの挨拶をした。




もう彼女には会えないのかもしれない。



ぼくは元気よく手をふった。
















百回、嬉しいことがあったとしても




百回、悲しいことがあったなら



ゼロかもしれない。




だけどきっと、なにもしないゼロよりも



泣いて笑った毎日は



何倍も幸せなんだ。               




「Love To The World」  Little Glee Monster







光あふれるこの世界は



わるいことばかりではないと思う。







たとえもう、彼や彼女に会えないとしても。








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No title

What's up colleagues, nice post and nice urging commented at
this place, I am genuinely enjoying by these.
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